万里の長城に2時間で飽きた男が、紫禁城の路地裏で足を止める話
9月20日から23日まで、3泊4日で北京に行ってきました。
出発前の私は、それはもう念入りに計画を立てていました。故宮のチケットが解禁される時刻を逆算し、高速鉄道の発売日にアラームを仕掛け、地下鉄の乗り換えを分単位で詰めた表まで作っていたのです。
結論から言うと、そのほとんどを現地で壊しました。
そして壊したあとに残ったもののほうが、ずっと面白かった。そういう4日間の記録です。
1日目:着いて、鴨を食べて、湖でがっかりする
関空09:30発のNH979で、北京首都国際空港には12:05着。入国審査は指紋と顔写真を取られて、荷物を受け取って外に出るまで 約30分 でした。1時間は見ていたので拍子抜けです。
空港から市内へは、机场快轨(エアポートエクスプレス)で东直门まで出て、地下鉄2号線と5号線を乗り継ぎます。ホテルは東城区の東四北大街。30元弱、1時間ちょっと で着きました。
ちなみにホテルからは事前に「送迎を出しますよ、280元です」と提案されていたのですが、断って正解でした。地下鉄で普通に着きます。
四季民福の北京ダックが、この旅のピークだった
チェックインしてすぐ、遅めの昼食に 四季民福 へ。北京ダックとサラダを頼みました。
これが 絶品。結果的に、4日間で食べたもののなかでこれが一番でした。初日の昼にピークが来てしまったわけですが、まあ、そういうこともあります。
什刹海には、期待していたものがなかった
夕方、什刹海のほうまで歩いてみました。湖のほとりに店が並ぶ、ガイドブック的には「夕暮れがきれい」とされているエリアです。
正直に書くと、かなりがっかりしました。
タバコ臭く、どこかの店から超絶音痴で田舎くさい歌がやかましく流れていて、「これ、田舎のカラオケ大会かな?」と思いました。照明もがやがやしていて好みではないし、湖畔なのに車が走っていて歩きにくい。
場所のポテンシャルをまったく活かせていない、という印象でした。台湾の淡水のような、水辺のしっとりした感じを期待していたぶん、落差が大きかったのだと思います。
途中で入った 方磚廠69号炸醤麺 のジャージャー麺も、私にはピンときませんでした。(※この店の名誉のために書いておくと、これには後日談があります)
2日目:万里の長城で、2時間で飽きた
月曜日。北京では 故宮も国家博物館も月曜休館 なので、この日を長城にあてていました。これは正解でした。
朝6時40分にホテルを出て、地下鉄で北京北駅へ。07:47発のD6703 に乗ると、八達嶺長城駅まで31分です。駅は地下100mという深さで、地上に出て登城口まで歩くと30分ほどかかります。
天気は最高、というか暑いくらい。人出は多め。9時前には城壁の上に立っていました。
きついと言われている側のルートを、4楼より先まで登りました。石畳そのものは普通ですが、段の幅が不均等で、急なところは尻もちをつかないと降りられないくらい怖い です。膝に不安のある人は本気で気をつけたほうがいい。
で、2時間ほど歩いたところで、飽きました。
雄大とは、単調ということなんじゃないか
誤解のないように書いておくと、美しいんです。雄大だし、圧倒的です。
ただ、歩きながらずっと考えていたのは、こういうことでした。
雄大って、要するに単調ってことなんじゃないか。
リズムがあるというのは、同じものがずっと続いているということです。城壁の楼が、稜線が、同じかたちで地平線まで反復している。その反復の規模が人間離れしているから、私たちはそれを「凄い」と感じることができる。
でも逆に言えば、雄大なものは構造上、必ず単調です。 一点ものは巨大にはなれても、雄大にはなれない。
そして雄大さは、一望した瞬間に完成しています。歩くというのは、その一望をわざわざ時間に引き伸ばす作業でしかない。だから歩けば歩くほど、雄大さは目減りしていく。
私は写真で何十回も見た景色を、2時間かけて実物照合していただけだったのだと思います。そこを歩いたからといって、何かが得られるわけでもなかった というのが、この日の学びでした。
普段は六甲山を歩くのが好きなので、歩くこと自体が嫌いなわけではありません。ただ登山道は、土や根や岩で足裏の情報が絶えず変わるし、何より山頂という終わりがある。長城には終点がなくて、どこまで行っても先があります。
予定を早めて帰った(そしてこれは無料でできる)
というわけで、13:42の予定を早めて 11:45の列車 で戻りました。
これ、知っておくと便利です。 中国の高速鉄道は、駅の有人カウンターで変更手続きができて、早い列車に振り替える分には無料 でした。中国語でのやりとりになりますが、券面を見せれば通じます。
「飽きたら早く帰れる」と分かっているだけで、行程の組み方が変わると思います。
午後は雲南料理とUFO
ホテルには直帰せず、多味居 で雲南料理を食べました。
そのあと、前から見たかった 銀河SOHO へ。UFOみたいな曲線の建物で、これは満喫しました。GoProで撮りまくっています。
建物とつながった地下街で M Stand(上海発のコーヒーチェーン)のアメリカンを飲み、そのあと 一點點 でミントミルクティーを飲みました。
夜はしばらく放浪した挙句、ホテルの北側にあった 胖妹面庄 へ。四川風の和え麺が 美味しかった。一緒に頼んだ、揚げ豆腐に甘いタレをかけたようなお菓子も良かったです。
3日目:故宮で、見せ場ではないところに足が止まる
この旅の本命です。故宮のチケットは実名制で、当日券がなく、7日前の20時に解禁され、1パスポートにつき1日1枚 しか取れません。しかも4月から10月はまず取れないと言われています。
私はこれを ホテルのスタッフのLeoさんに丸投げしました。 結果、無事に確保してもらえました。自力では勝てない構造の予約は、現地の人に任せるのが正解です。
面白いことに、Leoさんとは最後まで一度も直接会っていません。 WhatsAppでやりとりして、予約番号だけ受け取って、当日はその番号とパスポートで問題なく入場できました。
一番よかったのは、西側の路地だった
午門から入って、中軸線を北へ。太和殿も乾清宮も、もちろん凄い。
ただ、この旅でいちばん記憶に残っているのは、西側の路地です。
人はそれなりにいるのに、そこだけはほとんどいない。何ということもない、建物と建物の隙間のようなエリアでした。
明るい空、豊かな緑の庭園、分厚くて短い屋根、赤い壁。自分が「中国」と聞いて思い浮かべる枠の外にある、カラフルな景色 でした。だから印象に残ったのだと思います。
説明書きも順路も人の流れもないので、勝手に想像が働きます。ここで一生を終えた人たちがいたんだなあ、と思いを馳せていました。
整備された見せ場は、見方まで一緒に提供されてきます。感動の仕方が決まっている。でも何でもない中庭には何も付いていないので、自分で埋めるしかない。あれは与えられた感動ではなく、自分で構成した感動だった のだと思います。
故宮が良すぎて、頤和園に行きたくなった
12時に故宮を出て、当初の予定では王府井に行くことになっていました。
でも故宮が想像以上に良かったので、宮廷文化をもう少し別の角度から見たくなった んです。その場の気分で、頤和園に行き先を変えました。
ここで初めてDiDi(配車アプリ)を使いました。正直、この旅ではタクシーの類を使うつもりがなかったのですが、頤和園があまりにも遠すぎた。 北京は思っていたより交通の便が悪いです。
使ってみたら、詐欺がしにくい仕組みになっていることもあって、何の問題もありませんでした。運転手さんは一見無愛想ですが、こちらから話しかければ普通に応じてくれます。また使うと思います。
頤和園は、雑然のなかに突然現れる優雅さだった
これが、行って本当によかった。
スケールが桁違いなのもありますが、それ以上に、自分がイメージしていた中国の騒々しさとはかけ離れた優雅さ がありました。雑然とした世界のただ中に、突如として琵琶湖のような静かな水面が広がっている。
一周したので3時間くらいいました。ちなみに 予約は当日で間に合いました。
ただし、正直に書いておくと、トイレは汚く、洗い場がありません。 自販機で頤和園の水が売られていましたが、あの環境を見たあとでは買う気になりませんでした。警備員のおじさんが手を洗わずに当たり前のように出ていったのには衝撃を受け、私はたまたま置いてあったアルコールジェルのマシンで手をゴシゴシして「洗ったことにした」のでした。
ジャージャー麺のリベンジと、最後の夜の話
夕方、またDiDiでホテル最寄りまで戻り、地下鉄で 北京APM という商業施設へ。ルクアくらいの立ち位置だと聞いていたのですが、内装がちょっと古めで違和感がありました。
ここで 裕蓮茶楼 という香港系の店の看板のお茶(茶色っぽいやつ)を飲んだら、これが結構美味しかったです。
そして帰りに 承景云・宮廷炸醤麺 で、ジャージャー麺を食べ直しました。今度はちゃんと美味しかった。
違いは、麺の湯切りがしっかりしていたことと、麺自体に腰があったこと。あとは私が事前に食べ方を調べて、先に油を麺に馴染ませてから、味噌を後で混ぜて乳化させる という正しい手順を踏んだのも大きかったと思います。それを差し引いても、2回目のほうが美味しかった。
この店で、ちょっとした事件がありました。
注文して20分以上経っても料理が来ない。
初めて「差別されたかな」という考えが脳裏をよぎりました。旅行中、こういう疑いが頭に浮かぶのは初めてでした。
若い店員のお兄ちゃんに伝えたところ、一緒にアプリの画面を見ながら原因を探ってくれました。結果、私が誤ってAlipayの注文をキャンセルしていた だけでした。完全に自分のミスです。
忙しい時間帯なのに時間を割いてくれて、私の下手な中国語にもちゃんと付き合ってくれて、これにはちょっと感動しました。正直、それまでに溜まっていた中国への悪印象が、かなり和らぎました。 帰りに挨拶をして店を出ました。
4日目:胡辣湯と、天窓から差す光
最終日。7時くらいまでダラダラしてから、そのままチェックアウトしました。
胡同を散歩しながら北上して、途中で見つけた河南料理の店 方中山胡辣湯 へ。よく分からないスープと油条を食べました。
これ、あとで調べたら 胡辣湯(フーラータン) という河南省の朝ごはんの定番でした。とろみのある胡椒辛いスープで、油条と合わせるのが正しい食べ方だそうです。狙わずに正解を引いていたらしい。
雍和宮の光
そのままホテルの北にある 雍和宮(Lama Temple) へ。
お堂のなかで、天窓から差し込む光が仏像にかかっている景色 があって、それがなんだかとても良かったです。
ここでも、いちばん心が動いたのは静かで光の綺麗な場所でした。
帰りに CHAGEE でコーヒーを飲んで、地下鉄で空港へ。あとはスムーズに帰れました。
振り返って:反応したもの、しなかったもの
並べてみると、自分がどこで反応してどこで反応しなかったのか、はっきりしていました。
響いた場所
- 故宮の西側の路地(人のいない隙間)
- 頤和園(雑然のなかの、水面の優雅さ)
- 雍和宮(天窓から差す光)
響かなかった場所
- 什刹海(がやがやした照明、音痴なカラオケ、車)
- 万里の長城(雄大だが単調)
静かで、なおかつ変化のある空間には反応する。演出された賑わいには反応しない。 どうやら自分はそういう人間らしい、というのが今回いちばんの収穫でした。
そう考えると、長城で飽きたのは長城が悪いわけではなくて、単に 私があれを「歩くもの」として消費しようとした のが間違いだったのだと思います。あれは見るものだった。
実用メモ:これから北京に行く人へ
入国まわり
- 日本人はビザ不要(2026年12月31日まで延長、30日以内の滞在)
- 紙の入国カードは廃止 されていて、オンライン申告。事前に済ませておくと速い
- 14〜70歳は 指紋と顔写真 を取られる
- 入国審査は、私の場合は着陸から 30分 で外に出られました
決済と通信
- Alipayだけで完結しました。 現金はほぼ使っていません。地下鉄も食事も入場料も全部これです
- 通信は日本で借りた ポケットWiFi。規制に引っかかる場面はなく、VPNの出番はありませんでした
予約が要るもの(ここが一番重要)
- 故宮:当日券なし。7日前20時(中国時間)解禁、実名制で1パスポート1日1枚。4〜10月はまず取れない。現地のホテルに頼むのが確実
- 天安門広場 も予約制です(私は結局行きませんでした)
- 頤和園 は当日で間に合いました
- 月曜は故宮・国家博物館などが休館。この日は屋外にあてるのが吉
高速鉄道(八達嶺長城)
- 北京北駅から 31分。電子チケットなので パスポートがそのまま乗車券 になります
- 外国パスポートは自動改札を通れないので、有人通路 へ
- 切符は14〜15日前に発売。私はTrip.comで往復2,273円(優先発券790円込み)でした
- 早い列車への変更は無料。駅の有人カウンターでできます
持ち物
- モバイルバッテリーは容量表示が読めるものを。 中国では3C認証のないものが国内線で禁止されていて、国際線でもチェックが厳しくなっています
かかったお金(主なもの)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 航空券(関空⇄北京・往復) | 203,371円 |
| ホテル3泊(故宮チケットの手配込み) | 27,819円 |
| 高速鉄道(往復) | 2,273円 |
| 空港⇄市内(片道) | 30元弱 |
航空券はKiwi.com経由でANA便を取りました。座席指定と旅行保険込みの金額です。
3泊4日、実質動けたのは真ん中の2日だけでしたが、十分でした。
計画を立てるだけ立てて、現地でぜんぶ壊す。壊せるだけの計画を持っていたから、気持ちよく壊せた のだと思っています。次もたぶん同じことをします。